オープン・カンパニー取材レポート 第2回 株式会社村田ボーリング技研
技術の会社なのに、2日間ずっと「なぜ働くのか」を考えさせる。静岡・村田ボーリング技研のオープン・カンパニー
「溶射」という言葉を、聞いたことがあるでしょうか。
溶かした金属やセラミックスを高速で吹き付け、対象物の表面に膜をつくる加工技術のことです。工場の機械部品は、使っているうちに金属と金属が擦れて摩耗していきます。そこに溶射を施せば、摩耗した箇所をピンポイントで修復できる。さらに、耐摩耗性や絶縁性といった、その部品がもともと持っていなかった機能を後から与えることもできます。
静岡市の村田ボーリング技研は、この溶射加工を手がける会社です。そして採用担当の松野さんいわく、溶射をやっている会社は「静岡でもうちともう1社くらい」。全国で見ても、決して多くはありません。
そんな技術の会社が開催する2日間のオープン・カンパニー(企業理解を目的とした短期のプログラム)。しかし、溶射の話がほとんど出てきません。学生が2日かけて考えるのは、「自分はなぜ働くのか」。それだけです。
参加した修士2年生は、終了後にこう言いました。「これから就活していく人に対して、人生の中でプラスになるような、かなり汎用性の広いことを目的にされていて、驚きました」
液晶テレビからトイレットペーパーまで、幅広い製造機械の部品を手掛ける
村田ボーリング技研の創業時の仕事は、エンジンの修理でした。ただ、エンジンの性能が上がって修理しなくても済むようになったことで、現在の主戦場は工場の機械部品へと移っています。
松野さん溶射の技術は、身近なところでは、液晶テレビの裏側に膜を塗る機械に使われていたり、トイレットペーパーを作る工場の機械に使われていたり。本当にいろんなところで使われている技術です
顧客が特定の業界や部品メーカーに偏っている、ということはない。工場があるところには、擦り減る部品がある。だから、業界を問わず仕事が来るのだといいます。
依頼は1個単位のこともあれば、数十個単位のこともあります。摩耗した部品の修理の場合は1個ずつ。一方、新品の部品にあらかじめ耐摩耗性を持たせておくための溶射は、まとまった数で入ってくるそうです。
もうひとつの特徴が、一貫体制です。溶射という仕事は、溶射だけで完結しません。前工程の切削加工、後工程の研削加工まで、すべて自社で行っています。特殊な技術に尖りながら、その前後の工程まで引き受ける。それが、この村田ボーリング技研の立ち位置です。
「うちに来なくてもいい」と言い切るプログラム
では、なぜこのプログラムで溶射などの技術を伝えることに特化しないのか。松野さんはこう話します。
松野さんこの2日間は、ものづくりとはまったく関係ないワークになっています。背景には、せっかくやるなら、学生のためになることを一番やりたいよねという思いがあります。その判断のもとにあるのが、当社の経営理念、『社員とその家族、そして取り巻くすべての人々の安心と幸福を実現する』です。社長が繰り返し語るこの一文の『取り巻くすべての人々』には、プログラムに来る学生も含まれている、という解釈です。参加いただく学生さんには、当社の技術や知識を持ち帰ってもらうというよりは、自己分析を通して考えてもらう。最終的にうちの選考に来てくれたらすごく嬉しいんですけど、仮にうちじゃなかったとしても、どこに行っても活躍できる人になってねという、応援メッセージを込めてプログラムを組んでいます
その軸になるのが、専務による「働く・生きるを考える」という講話です。
松野さん学生さんと会うと、働くことにネガティブなイメージを持っていたり、働くのが怖いんです、という声をよく聞きます。でも、働くって本当はすごく楽しいし、価値があるものなんだよ、という話をします
講話で語られる幸せの定義は、こういうものです。幸せとは、自分より大きなものに、自分の強みを持って貢献していくこと。
抽象的に聞こえるかもしれません。ただ、この一文が学生の考える「いい会社の定義」をどう変えたかは、後述します。
この設計には、松野さん自身の原体験があります。松野さんは、就活時に村田ボーリング技研を受けました。
松野さん当社の選考を進んでいく中で、『ここまでしてくれる大人がいるんだ』というのが、ひとつの希望だったんです。そんなに一生懸命、自分たちに時間を割いて向き合ってくれる人がいるというのが嬉しかったし、そういう人になりたいなと思えたきっかけでもあったので
当時の選考は、2日間泊まりがけ。「経営理念が実現した未来を劇で表現する」という、答えのない課題に夜中まで取り組む、なかなかにヘビーな内容だったといいます。社員はその全部に付き合ってくれました。
決め手になったのは、最終的に2社で迷っていたときにかけられた一言でした。
松野さん『松野さんが幸せになれる方を選んだらいいのよ、うちじゃなくてもいいのよ』と言ってもらって。こんなに自分の幸せを軸に考えてくれる人がいるんだ、というのが衝撃で。私はそこで決めたようなものでした
その言葉を、今度は自分が学生に返す立場になった。今のプログラムは、その延長線上にあります。
自分の言葉で「働くこと」を語るワーク
開催は2日間。昨年までは3日間でしたが、学生の負担を考えて今年は2日間に短縮し、内容もブラッシュアップしたといいます。参加者は少人数で、昼食は社食で全員一緒に取ります。
1日目に工場見学と専務の講話、そしてディスカッションを終えたうえで迎える2日目が、このプログラムの本番です。
9:10
学びのシェア
初日の宿題の発表から始まります。テーマは「なぜ働くのか」。今の自分の言葉で、10分以上語る。発表後には、聞いていた学生同士で感想を共有します。この発表は録画され、後のフィードバックにも使われます。
10:00
自己理解ワーク「自分にとっての“いい会社”って?」(45分)
前日から考えてきた「働くこと」「自分にとっての幸せ」を、どんな会社なら実現できるのか。対話しながら考えます。
10:45
自己理解ワーク「自分のビジョンを描く」(30分)
どう生きたいのか、どう働きたいのか。そして、その背景にある思いを言葉にしていきます。
11:15
課題発表(45分)
ここで、最終課題が発表されます。「村田ボーリング技研のレビューサイトを、一人ひとりが作る」というものです。
2日間で学んだこと・感じたことと、村田ボーリング技研という会社のあり方を照らし合わせ、ひとつのレビューサイトとしてまとめる。形式は自由で、パワーポイントでも紙芝居でも構いません。必須項目は、なぜ働くのか、村田ボーリング技研の特徴、そして自分の価値観と照らし合わせたときの3つで構成します。
つまり学生は、企業の口コミサイトを読む側ではなく、自分の価値観を物差しにして書く側に回ることになります。
12:45
制作(約2時間45分)
午後はひたすら制作。学生が黙々と課題に向かう時間です。
15:30
発表・感想共有(30分)
一人ずつ発表し、互いに感想を共有します。
16:15
事後アンケート・個別フィードバック(30分)
最後は、社員が学生1名ずつを担当し、マンツーマンでフィードバック。少人数だからこそ成立する設計です。
参加した学生は、どう受け取ったか
2日間を終えた3人の学生に話を聞きました。
理系大学院修士2年のAさんは、大学に村田ボーリング技研が話に来たことをきっかけに参加。就活を始めるのが遅かったので、行けるオープン・カンパニーなどは参加していこうという、かなり実利的な動機でした。
そのAさんに、参加前と後で答えが変わったものがあります。「自分にとっていい会社とは何か」という問いへの答えです。
Aさん参加前は、自分が適応できる会社、がいい会社だと考えていました。入ったときにその環境に慣れていける、仕事をこなしていく上でやりがいを見つけながらやっていける、という意味で。今回色々考えた結果、自分が適応した上で自分の強みを活かせる会社、に変わりました
変えた理由として、Aさんは専務の講話を挙げました。
Aさん幸せというのは、自分より大きなものに自分の強みを持って貢献していくこと、というお話をされていたので。なら、自分にとってとりあえず大きいものは会社であろうと。その中に自分の強みを活かして貢献していくことで、おっしゃっている幸せを感じられるのではないかなと
企業が投げた抽象的な問いが、2日後には学生自身の判断基準として組み直されている。このプログラムが狙っていたのは、おそらくこういう変化なのでしょう。
教育学部3年のBさんは県外出身、大学が静岡県内。友人から「一人で行くのは寂しいから一緒に行かない」と誘われて同社のミートアップに参加したのが、村田ボーリング技研との最初の接点だったそうです。
Bさん自ら能動的に決めたというより、とりあえず付いていった感じです。でも楽しかったので続けて、いくつかのプログラムに参加しています
Bさんの変化は、自分の中の言葉の解像度が上がった、というものでした。
Bさんもともと、働くなら雰囲気がいい会社がいいと思っていたんですが、雰囲気の良さにも、メリハリとか、挨拶が大切とか、良さの内容を考える必要があるんだな、と考えるようになりました
きっかけは工場見学だったと言います。
Bさん見学で見ていた社員さんたちは、もちろん仕事の話しかしていなくて、指導したり相談したりしている姿を見たんです。それが、お昼休憩のときに廊下を歩いていると、社員さん同士で普通に和気あいあいと日常の話をしていて。仕事のときは仕事の話、休憩はしっかり休む、というのが素敵だなと思いました
この夏、複数社で8つのプログラムに参加する予定で、村田ボーリング技研は4つ目。折り返し地点での評価はこうでした。
Bさんその中で一番、他の学生とコミュニケーションが取れる。他の学生についても知れるし、その中で自分も知れる。新しい種類で、面白いなと思ったのが感想です。自分を知るというタイプは、珍しいかなと思います
理学部4年のCさんは、静岡県内の出身で、就職も県内で探すと決めています。最初の接点は大学1年生のとき。大学の講義に村田ボーリング技研が講演に来たことでした。
Cさん他の会社さんの学内講演の場合、会社のことや地域のことの話が多い中で、働くとは、生きるとは、という哲学的なお話に惹かれて。長期のインターンシップがありますと言われたので、じゃあやってみようかな、と
3年にわたって関わってきた立場から、Cさんは全体を振り返ってこう話します。
Cさん最初は、会社ってすごいピシッとして真面目なイメージがあったんですけど。本当にここは和やかで、自由な感じで。働くということのイメージが明確になったかなと思っています
今回の2日間でよかったことは、他の学生と社員の話を聞けたことだと言います。
Cさん『働くとは』みたいな内容って、友達とも日常では話したりしません。だからこそ、普段その人が何を考えていて、どういう経験をしてきたのかを知ることができて、よかったなと思っています
「用途に合わせて選ぶと、いい経験になる」
このプログラムの特徴は、参加した学生自身が一番はっきり言語化していました。冒頭で紹介した、Aさんの言葉の続きです。
Aさんオープン・カンパニーやインターンシップってイメージで言うと、どちらかというと会社の仕事を体験するようなものだと思っていました。ですが、今回のオープン・カンパニーは、これから就活していく人に対して、人生の中でプラスになるような、かなり汎用性の広いことを目的にされていて、こういうのもあるんだなと驚きました
この夏、金融や商社で営業を実際に体験する型のプログラムにも参加したBさんはこう話します。
Bさん会社や業務紹介も、今回のような自分を見つめ直すものも、どちらもいいんです。その会社がどんなことをしているか知りたいなら、体験できるところに行く。まず自分が今、何をしていいか分からないという場合は、今回の村田ボーリング技研さんみたいに広く教えてくれたり、他の学生ともっとコミュニケーションが取れる機会に行く。用途に合わせていくと、いい経験になるのかなと思いました
採用担当の松野さんが学生に伝えたいこととして挙げたのも、結局は同じ方向を向いた話でした。
松野さんたくさんの大人に会っておくのが、すごく大事だと思います。学生のうちって、親や学校を除くと、バイト先とインターンシップ先くらいしか働く大人と接する機会がないと思うんです。でも、そこから見える範囲って、社会人になってみると結構狭いんですよね。出向けば受け入れてくれる企業や社会人はたくさんいるので、気になったらぜひ会いに行ってほしいです
そして、2日間で持ち帰ってほしいものについて。
松野さん働くって、単なるお金との交換じゃないんだよ、というのはどこかで感じ取ってほしくて。楽しい、まではまだ分からないかもしれないですけど、自分にとって意義があるものなんだ、と考えるきっかけになるといいなと思っています
自社の技術を売り込む代わりに、学生自身の人生の設計図を描かせる。そして「うちじゃなくてもいい」と言い切る。
仕事を体験する型のプログラムも、自分を知る型のプログラムも、静岡県内にはそろっています。あとは、今の自分にどちらが必要かだけです。
村田ボーリング技研株式会社
事業内容
村田ボーリング技研株式会社は、機械部品の表面に特殊なコーティングを施す「溶射」を専門とする会社です。機械部品が摩耗や腐食などでそのまま使えなくなった際に、表面を再生・改良することで、部品を長く使えるようにしたり、新たな機能や価値を加えたりする仕事をしています。自動車や印刷、製紙、食品など、さまざまな業界のものづくりを技術で支える一方、「人を大切にする経営」を軸に、社員一人ひとりが安心して長く働き、成長できる会社づくりにも取り組んでいます。
| 設立 | 1950年 |
|---|---|
| 所在地 | 静岡県静岡市駿河区北丸子1-30-45 |
| 従業員数 | 89名 |