オープン・カンパニー取材レポート 第1回 鈴与商事株式会社
「話し上手じゃなくていい」。創業220年のグループから生まれた商社が、1日かけてヒアリングメインのワークを行う理由
「商社」の営業と聞いて、どんな仕事を思い浮かべるでしょうか。
海外を飛び回り、資源を動かし、億単位の金額が行き交う。多くの人が抱くこのイメージは、たしかに商社の一面です。ただしそれは、商流の一部にすぎません。
静岡市に本社を置く鈴与商事は、同じ総合商社でも立ち位置が違います。扱う商材はエネルギーを軸に、マテリアル、DX商材、家電やボトルウォーターまで。売る相手は、東海・甲信越・関東の企業と個人。つまり、お客様のすぐ隣にいる会社です。
その鈴与商事が開く1日のオープン・カンパニー(企業理解を目的とした短期のプログラム)で学生が体験するメインは、プレゼンでも企画立案でもなく「ヒアリング」です。
しかも、参加した多くの学生が「難しかった」と口にするほどの内容。8月末に開催された当日の様子を取材しました。
500人で1,700億円を動かす、静岡の商社
鈴与商事は、創業220年以上の鈴与グループの一社です。
グループの始まりは江戸時代の物流業。清水港で船から荷物を積み下ろす仕事からスタートし、時代とともに輸送手段が船から鉄道へ移るなかで、「運ぶために必要な燃料も扱ったほうがお客様のためになる」と時代の流れを先読みし、石炭販売を開始。
その後、鈴与として事業を拡大していく中で、販売部門が分社化して生まれたのが、鈴与商事でした。
グループ140社のうち、物流・商流・建設・自動車運送を担う「主要4社」の一角。売上高は約1,700億円、従業員は約500名です。
「500人で1,700億円を稼ぐ会社って、日本にはそんなに多くないんですよね」
営業を経験し人事部に移った宇佐美さんは、鈴与商事の一人当たり売上高をそう表現します。
宇佐美さん拠点は19。静岡を中心に、東海・甲信越・関東、そしてタイ・ベトナム・中国。特定の地域に密着し、長期で寄り添い、信頼関係を築くことで、お客様の課題を深く解決する営業こそ鈴与商事を体現しています
この「地域密着」という選択は、事業の中身にも表れています。同社が自治体と組んで進めるエネルギーの地産地消ビジネスでは、ごみを燃やす際の焼却熱で発電し、市町村の小中学校に設置した蓄電池へ電気を貯めたり、災害時に供給したりしています。静岡市内のほぼすべての小中学校と市の施設は、この電気で動いているそうです。
ただし、宇佐美さんはこうも言い切ります。
宇佐美さん『安定して多くの利益を出す』ということは、鈴与商事を含め、営利組織である全ての企業の本分だと思います。一方で、たとえスケールが小さく、利益が少ない仕事であっても地域のためになるなら、やり続ける。それが、当社が考える地域密着です。始まりは小さくとも、やがて地域の未来を支える事業、産業に昇華されていく。それが220年続く経営基盤を持つ鈴与グループ、鈴与商事だからできることだと考えています
同社が掲げるコンセプトは「クサノネイノベーター」。一見地味な仕事でもコツコツ積み重ねた結果、いつのまにか暮らしを変えるイノベーションになっている。そんな考え方だそうです。
狙いは「話し上手」を否定すること
なぜプログラムの主役がヒアリングなのか。答えは、同社の営業スタイルにあります。
一般的に想像する営業は、商品を仕入れて、その売り先を探す。鈴与商事は順序が逆で、まずお客様と会話し、悩みを引き出し、その悩みを解決するために各社から商材を仕入れて提案する。課題が先、商材は後。いわゆるソリューション営業です。
宇佐美さん在庫があるから売り先を探そう、という営業ではありません。課題がなければ仕入れる必要すらない。だから、話し上手な人・コミュ力が高い人が売れる営業マンかというと、うちはそうでもなくて。目の前のお客様に寄り添いきれる人、傾聴力のある人が売れるんです
たとえば、工場長から「光熱費を下げたい」と相談されたとします。年間200万円の削減提案を出せば、他社は230万円、250万円と数字を重ねてくる。価格競争になります。
そこで鈴与商事は、まったく違う話を始めるといいます。
宇佐美さんこの工場は何のために稼働しているのか。1ラインに何人いるのか。そうして5年後には削減分でFAロボットを1台、10年後にはオフィス製品をと、目先の見積もりではなく、5年10年15年の未来を一緒に描くのが特徴です。そこまで実感してもらえた瞬間、他社が少しくらい安くても、うちに頼んでくれるんだろうなと。これが営業をやっていた頃の肌感です
この営業の入り口を、学生に1日かけて体感してもらう。それが今回のオープン・カンパニーの設計思想なのだそうです。
持ち帰ってほしいものは3段階あると言います。まず、ソリューション営業ではヒアリングが大事だと知ること。次に、そのヒアリングとは人に興味を持ち、お客様の背景まで読み取ることだと理解すること。そして最後に、自分たちは物売りではなく、お客様の将来を一緒に設計していく仕事なのだと気づくこと。
ちなみに、求める人物像として「ロジカルな人」「メタ認知が高い人」も挙がりましたが、宇佐美さんはこう付け加えました。
宇佐美さんロジカルシンキングやライティングは、入社後にこちらが研修で育成します。だから心配いりません。まずは人が好きで、目の前の人の課題を解決して、その後にもらう感謝の言葉をやりがいだと思える人。そういう人が向いています
一日の流れ BtoCで学び、BtoBで試す
オープン・カンパニーのプログラムは、朝10時から夕方17時過ぎまで。
まずは45分間の会社説明から。ここで宇佐美さんは初任給、社宅制度の自己負担額、男性育休の取得率と取得期間まで、かなり踏み込んだ数字を開示します。「大事ですと言ったところだけメモを取ればいいですからね」と冗談を交えながら、30分ノンストップで話し切ります。
その後、グループで自己紹介。ただの自己紹介では終わらず、隣の人に対して自己紹介の内容を深掘りするミニワークが入ります。午後の予行演習です。
昼食では社員も学生と同じ卓に座ります。
そして午後、本番のケースワークへ。
ケース1
BtoC営業のロープレ/70分
ヒアリング45分、提案資料作成10分、提案15分。その後、モデルケースの発表。
ケース2
BtoB営業のロープレ/70分
同じ流れをもう一周。BtoCで学んだことをそのまま試せる構成です。
ヒアリングの相手役は鈴与商事の社員。ここで学生が最初にぶつかる壁を、宇佐美さんはこう表現します。
宇佐美さん学生のヒアリングって、レベル感としては『何か困り事はありませんか』なんですよ。でも我々社会人からすると、それで困り事を話してくれるお客様はいないよねと。じゃあお客様自身も気づいていないニーズをどう探るのか。それを手探りでやらせます。だから、結構きついプログラムだと思っています
ワーク終了後は25分間のフィードバックタイム。ヒアリングの様子、提案の様子を見ていた社員から、一人ひとりに個別のフィードバックが返ります。
そして最後が社員座談会。1ターム12分、4タームを強制ローテーションで回す形式です。人事だけのブースも用意されています。
宇佐美さんNG一切なしの本音トークと謳っています。人事が近くにいると聞きたいことを聞けないと思うので、席を分けて強制的に回します
座談会を少し離れて見ていたところ、「年収はいくらですか」「ボーナスはいくらですか」はもちろん、「鈴与商事の嫌いなところ・悪いところをたくさん教えてください」という質問にも普通に答えているのが聞こえてきました。
参加した学生は、どう受け取ったか
当日参加していた2人の学生に話を聞きました。
駒澤大学3年のAさん(神奈川県出身)は、合同説明会で鈴与商事を知り、商社の営業職を志望して応募。これまでに専門商社など複数の1日プログラムに参加してきましたが、今回は「結構違った」と言います。
Aさんお客様に寄り添うって、どこの会社も言えはするんです。でも、ここまで寄り添っている会社はなかったなという印象でした。今だけじゃなくてその数年先を考えるという話は、他では聞かなかったですね
印象に残ったのは座談会よりもワークのほうだったとのこと。
Aさん用意された商材じゃなくて、あくまで自分で考えるっていうのは、あんまりないです。本当に難しかったですね、自分でいろいろ考えるというのが
フィードバックで言われたのは「返答するとき、ワンテンポ遅らせて、一度ちゃんと相手の話を飲み込んでから返す」というアドバイス。「自分でも早口になっているなと感じていたので、かなりいいアドバイスになりました」と振り返ります。
横浜市立大学3年のBさん(静岡市出身)は、金融業界を第一志望に、静岡銀行や商工中金などのプログラムに参加してきました。商社で参加したのは鈴与商事だけだったと言います。
ヒアリングを体験できるプログラムは、参加してきたなかでも3社しかなかったとBさんは話します。そして、今回はその3社と比べても時間の使い方が違ったそうです。
Bさん他社はヒアリングのための時間制限や、回数制限など制約事項がかなりありましたが、今回は何度でも何分でも聞いていいと言われたので『違うな』と感じました
BtoCの後にBtoBがある構成も、Bさんには効いたようです。
BさんBtoCでいろいろ学んだ後に、BtoBで『じゃあ次はこういうことを意識してみよう』『こういうことを具体的に聞いてみよう』と意識しながらできた。そこが一番印象に残っています
社員からのフィードバックは「深掘りはできていたけれど、1歩分くらい。もう1歩2歩先まで掘れれば、もっと本質に触れられる」というもの。「自分のヒアリング能力を自分で分析する機会はないので、すごく参考になりました」と話します。
満足度を5段階で尋ねると、Bさんの答えは「4」。減点の理由は内容ではなく時間でした。
Bさん内容的には充実していたんですが、我々のチームはヒアリングより、提案資料の作成を意識してしまったため、ヒアリングは不完全燃焼で終わってしまった。なので時間的な面で4にしました
一日を終えての感想は、一言で「楽しかった」と。
Bさんこれまで金融メインに業界を調べたり、オープン・カンパニーに参加しており、商社についてあまり知識がなかったので新しい視点を知れたこと。ヒアリングで自分を客観視できたこと。あとはやっぱり、人のつながりを感じられたことが楽しさの大きい要因です
「静岡で働きたい」じゃなくていい
最後に、宇佐美さんが学生に必ず伝えているという話を紹介します。
同社における今年度の内定者は、県外出身と県内出身の比率がおよそ6対4。県外のほうが多いのです。
宇佐美さん静岡で働きたい、という学生を集めているわけではないんです。伝えているのは、最終的に静岡に戻ってこられるというビジョンのほう
鈴与商事には、全国+海外も対象の「総合職」と、自宅から通える範囲で働く「地域総合職」があり、3年に一度、自分の意思で行き来できます。最初は総合職で外の景色を見て、結婚や子育てのタイミングで地域総合職に移る。あるいはその逆も選べる。
宇佐美さん全国転勤がある超大手企業、憧れますよね。いいと思いますよ。ただ2〜3年に一度転勤がある。我々の転勤範囲はあくまで東海・甲信越です。給与も福利厚生も転勤範囲も総合的に見ると、意外と悪くないんじゃない?という話も学生にどんどんします
一方で、海外志向が強い学生や、激務でも全国転勤でも構わないというタイプには、はっきり「ベクトルが違う」と伝えるそうです。グローバルではなくグローカル。そこは隠しません。
静岡には、県外の学生をわざわざ呼び寄せ、一日かけて自社の営業の本質を体感してもらい、年収も悪いところも本音で答えてしまう会社があります。
いま県外の大学に通っている人も、静岡を選択肢から外している人も、まずは一日だけ、のぞいてみてはどうでしょうか。
鈴与商事株式会社
事業内容
石油製品・LPG等のエネルギー販売、発電および電力の仕入・販売、エネルギーシステム機器の販売・施工・保守管理、太陽光発電システムの販売、温室効果ガス排出権の販売、ボトルウォーターの製造・販売、セメント・生コンクリート等建設資材の販売、合成樹脂原料・化成品・合成樹脂製品等の販売、FA電機品、複合機他OA機器販売、他
| 設立 | 1990年 |
|---|---|
| 所在地 | 静岡県静岡市葵区栄町1-3 鈴与静岡ビル8F |
| 従業員数 | 553名 |